「裏切り」 終章 翌日、翔一と桜子は片倉家の近所にある公園にいた。 「今回の事件は強盗殺人に偽装した怨恨による殺人事件だと思っていました。二種類の凶器が使用されたのも確実に相手に止めを刺すためだと思われた。しかし、事実はそうではなかった…」 「…
「裏切り」 第七章 「気が付いた時には、部屋の真ん中で母がぐったりとしていました…。私もただ呆然と座っていることしか出来ませんでした…」 事の元凶がまさか母親にあったことは翔一も桜子も予想だにしていなかった。話が途切れた梢に桜子は優しく言い放つ…
「裏切り」 第六章 翔一と桜子は梢を取調室へ案内した。彼女が警視庁に出頭した理由は、事件の真相を告白するためだと言う。 「どうして話す気になったの?」 桜子は普段とは違って宥めるように梢に尋ねた。 「父が自殺したということを聞いたものですから……
「裏切り」 第五章 翌朝、翔一と桜子は再び宅配会社を訪れていた。この時間には片倉が出勤していると聞いていたからである。 「佐々木さん」 昨晩とは違い、多忙な様子の好青年は声に気づき小走りで翔一の元へやって来た。 「お忙しい所、申し訳ありません。…
「裏切り」 第四章 「何を考え込んでいるの?」 サングラスを掛けて豪放な運転をする桜子は、助手席で物思いにふける部下が気になっていた。 「青井さんの仰っていた『何か』が割れた音と言うのが気になりまして」 「それが事件と関係あるかは分かんないんで…
「裏切り」 第三章 翔一は部屋の中央に立ち現場を見渡していた。目に映ったのはこなれた手つきで鑑識が現場保存をしている姿ばかりだった。 「北条さん、何か目新しい発見はありましたか?」 「今の段階じゃまだ何とも言えないな」 この男、北条透は桜子の一…
「裏切り」 第二章 「何で俺たちのアリバイなんて聞くんですか?」 翔一と桜子は落ち着きを取り戻しつつあった梢、慎太郎、詩織をリビングに集め聴取を行っていた。 「母親を亡くされたばかりで心中はお察します。ですが、あくまで形式的な質問なのでお答え…
「裏切り」*1 第一章 都内に所在している割には似つかわしくない、何処か殺風景な趣を隠せない古風な民家があった。その家には現在、片倉昌代と言う女性とその娘二人、息子一人と家族四人で慎ましく暮らしていた。 この一家の評判は近隣住民の間でも有名であ…
「贖罪の過去」 終章 「そうですか、それで主人は…」 翔一と桜子は絵李菜の住居に訪れていた。岩城が離婚を申し出た動機を伝えるためである。 「御主人は自分のミスで香苗さんの遺族からあなたにも怒りの矛先が向けられる事を恐れていました。そのためあなた…
「贖罪の過去」 第六章 翌日、翔一は一人で畠山家に再び訪れた。迎えてくれたのは今度は千夏であった。 「今日はどう言った御用でしょうか?」 「実は岩城さんを殺害した犯人が分かったのでそれをお伝えしに参りました」 千夏は一瞬動揺したような素振りを見…
「贖罪の過去」 第五章 警視庁に戻って来た翔一と桜子は例によってコーヒーを啜っていた。一口飲んでカップを置いた桜子は翔一に先刻の疑問をぶつける。 「どうしてあの殺人事件だけに絞ったの?」 翔一もカップを置いたが桜子の声はどうやら届いていなかっ…
「贖罪の過去」 第四章 「岩城君が気に病んでいた原因が、千夏さんをいじめていたことにあったのなら今回の事件の真相も自然に見えて来るけど…」 畠山千夏の自宅に暇を告げた翔一と桜子は、次に九宝絵李菜の住居へと向かっていた。しかし、岩城殺害の動機が…
「贖罪の過去」 第三章 「まさか…俊の奴が死んだって、一体どうして…?」 開口一番にそう告げた警察官二人に西沢はさすがに動揺の色を隠せないでいた。落ち着くまでの時間を与えると、翔一は口火を切った。 「あなたは岩城さんと仲がよろしかったのでしょう…
「贖罪の過去」 第二章 桜子は新米刑事である津上翔一を引き連れて、一課の刑事と共に現場に急行した。そこで見たものは、昨日まで自分が話していた人物とは思えない血色の変わった旧友の無残な姿であった。捜査に私情を挟んではいけない事も誰よりも理解し…
*1 「贖罪の過去」 第一章 警視庁捜査一課の沢渡桜子は久方ぶりの休暇を取っても、決して羽目を外そうとは思っていなかった。警察官と言う因果な仕事に就いた以上、たとえ休みであっても一日にして市民安全を第一とする心得を忘れてはいけなかったからである…