「贖罪の過去」 第三章 殺害の動機は苛めにあり!? 新たなる容疑者浮上
「贖罪の過去」
第三章
「まさか…俊の奴が死んだって、一体どうして…?」
開口一番にそう告げた警察官二人に西沢はさすがに動揺の色を隠せないでいた。落ち着くまでの時間を与えると、翔一は口火を切った。
「あなたは岩城さんと仲がよろしかったのでしょうか?」
「ええ、俺とあいつは幼稚園の頃からの付き合いですからずっと交流がありました」
それを聞いた桜子は二人の会話に割って入る。
「じゃあもしかして、あなた彼と同じ中学校にも通っていたの?」
「そうですけど?」
自分と同じ中学校に西沢も在学していた事が分かり桜子は驚いたが、すぐにその顔を隠して続けて質問をする。
「中学三年生の時は彼と同じクラスだった?」
「いえ、その年はクラス替えであいつと別れました。何でそんな事を聞くんですか?」
自分のクラスに西沢がいなかった事を確認すると、そのまま桜子は話を進めた。
「いえ別に。ところで、一昨日に小学校の同窓会が行われたのよね?」
「ええ、卒業時のメンバーで『鳥七園』と言う居酒屋に集まりました。全員じゃありませんけど」
「岩城君も来たのよね?」
「来ましたよ。けど、そんなにあいつ乗り気じゃなかったんですけどね」
「どうして?」
「俺が無理矢理誘ったと言うか…、皆が騒いでいるのに一人だけ何故かずっとそわそわしていたし、様子もおかしかったんです」
「それについて何か心当たりとかはない?」
「特にないですね。…あ」
西沢の口調が滞る。
「どうしたの?」
「もしかするとあいつ、あの事を気にしていたのかな…」
「あの事?」
西沢は一旦桜子から顔を背けると何かを考えるように再び口を開いた。
「刑事さんにこう言うのもなんですが…実は六年生の時に俺とクラスの男子で一人の女子をその…少しだけいじめていたんです。その中に俊の奴も加わっていたんですよ」
「いじめですって!」
声を荒げて憤怒した桜子を抑えて今度は翔一が西沢に向き直る。
「そのいじめの程度は酷かったのですか?」
西沢は無実を訴えるかのような素振りで必死に弁明した。
「本当に大した事はしていないんです、信じて下さい! その証拠にその女子は普通に同窓会には来ていましたから」
「その人の名前は?」
「畠山千夏です。住所は分かっているので確認を取っても構いません」
「分かりました、それは後にしておきましょう。西沢さん、これを見て頂けますか?」
翔一は先刻岩城の部屋で撮影した画像を西沢に見せた。
「ああ、絵李菜さんですね。俊の奥さんだった人です」
「だった?」
「一年程前に離婚したそうです。何故かは知りませんけどね」
それを聞いて桜子は興奮から冷めた。
「だから私と会った時は何も言わなかったのか…」
翔一と桜子は畠山千夏と前妻である九宝絵李菜の住所を入手し、西沢の自宅を後にした。
まずは西沢達がいじめていたと言う、今はもう成人となっている女性の家へと翔一と桜子は足を運んだ。到着するとすぐに呼び鈴を鳴らしたが、顔を見せたのは当人ではないと一目瞭然の婦人であった。
「畠山千夏さんはいらっしゃいますか?」
「千夏に何の御用でしょうか」
翔一と桜子が警察手帳を見せると、その婦人は冷やかな態度で二人を中に入れて二階から千夏を呼んできたのであった。
「警察の方が私に何の御用でしょうか?」
千夏のあどけなさが残った顔立ちは緊迫した二人の刑事の態度を和ませた。
「小学生時にあなたと同じクラスだった岩城さんが昨夜何者かに殺害されました」
「…岩城君が?」
表情を変えない千夏を見て桜子が詰問するような姿勢を取った。
「余り驚かれないんですね」
「ええ…。彼とそれ程親しかった訳じゃなかったので…」
「不躾な質問ですが、あなたは小学生の時に彼を含む男子生徒からいじめを受けていたんじゃありませんか?」
予想だにしていなかったせいか、その質問に若干動揺した千夏であったが、桜子の目を見てしっかりと答えた。
「彼がいたかどうかは思い出せませんが、確かにいじめられていました」
「では彼を恨んでいたと言うことはないんですね?」
「ええ、別に…」
何処かうかない表情をした千夏を訝しく翔一は思っていたが、黙って桜子との会話を聞いていた。
「では質問を変えます。一昨日にあなたは小学校の卒業時メンバーとの同窓会に行かれましたね?」
「はい…」
「その時に岩城く…岩城さんと何か話をしたりとかは?」
「何も話していません。私はずっと女友達だけとおしゃべりをしていましたので…。彼がカウンター席の方でポツンと座っていたと言うことしか…」
会話が一時途切れると、先刻の婦人が三人の前にお茶を持ってきてそのまま無言でその場を立ち去った。
「今のはお母さんですか?」
「すいません、母は他人との接触を極度に嫌うものですから御気に障ったのなら私から謝ります」
「いえ、そう言う訳では…」
桜子の視線は何故か、部屋を出て行く千夏の母親に向けられていた。
続く