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短編 刑事・ミステリー小説

ちょっとしたミステリーや人間の心理を観察することが好きな方は是非一度ご覧を

「贖罪の過去」 第五章 事件の真相を追え!両者の行き着く被害者の許されない過去

「贖罪の過去」

第五章

 警視庁に戻って来た翔一と桜子は例によってコーヒーを啜っていた。一口飲んでカップを置いた桜子は翔一に先刻の疑問をぶつける。

「どうしてあの殺人事件だけに絞ったの?」

 翔一もカップを置いたが桜子の声はどうやら届いていなかった。

「桜子さん、少し調べておきたい事があるんですが」

 自分の質問を無視された桜子は苛立ったが、ここでは事件解決のために一歩引き下がった。

「そう、わかったわ。実は私も一つ気になる事があるの。今から別行動を取ることにしましょう」

 そう言うと、一足先に桜子は部屋を出て行った。翔一は桜子が思う疑問が何か気になっていたが、今は自分が成すべき事を果たしに同じく警視庁を後にしたのであった。

 

翔一の目的地は和泉香苗の住居であった。先刻の職員の男の挙動から、岩城が扱った殺人事件には裏があると確信した翔一は、遺族に事件当時の様子を聞き出そうとしていたのである。

「香苗が死んで二年になりますかね…」

 現在、和泉家には母親の良枝しか住んでいなかった。娘である香苗が亡くなったその後、亭主との生活も円滑には進まず別れたと言う。

「蒸し返すような真似をして大変申し訳ないと思っております。どうか話しては頂けないでしょうか?」

 良枝は何も言わず当時の出来事をゆっくりと話し始めた。

「香苗は無実だと訴えていました。私も夫も娘が人を殺めたなんてどうしても信じられませんでした。しかし最終的には、検事の方の言い分が有力だと決定的な証拠もないのに判決は有罪となりました。そして刑務所暮らしになった香苗が亡くなったと聞いたのは、それから暫くしてからの事です…」

「それだけでしょうか…?」

一呼吸置いて良枝は話を続けた。

「娘が亡くなってから一年程経った時、あの検事の方がある事を伝えに家に来たんです。その内容を聞いた時、愕然としました」

「何を伝えに来たんですか?」

 予想はついていた翔一であったが、そう聞かずにはいられなかった。

「娘は無実だったと…。犯人が自首しに来たそうなんです。その供述からその人で間違いないと分かり、検事の方は土下座しながら謝罪してくれました…」

「あなたはそれでその検事の方を許しましたか?」

 良枝は一旦渋ったような表情になり下を向いたが、翔一の方に向き直ってその顔を見据えた。

「あの方は心から悔やんでいたと思います。謝罪一つ一つの言葉からその気持ちはよく伝わってきました」

 良枝は涙を流しながら当時の状況を思い返していた。翔一もこれ以上は良枝の心の傷をえぐる様な真似は出来なく、次の質問を最後にしようと心に決めていた。

「その検事の方が来たのはあなたが離婚した後ではありませんか?」

「ええ、そうですが…?」

その後、和泉家から帰路についていた翔一は何処か浮かない顔をしていた。そんな中、携帯電話が鳴った。桜子からである。

「翔一? 実はこっちで調べていた件だけど、驚くべき事実が発覚したわ…」

 それを聞いた翔一もさすがに耳を疑ったようだった。しかし、すかさずいつもの態度に直り桜子に囁く様に言った。

「それで最後の疑問が解けました」

続く