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短編 刑事・ミステリー小説

ちょっとしたミステリーや人間の心理を観察することが好きな方は是非一度ご覧を

「裏切り」 第二章 容疑者は子供たち? 強盗殺人の裏を暴け!

「裏切り」

第二章

「何で俺たちのアリバイなんて聞くんですか?」

 翔一と桜子は落ち着きを取り戻しつつあった梢、慎太郎、詩織をリビングに集め聴取を行っていた。

「母親を亡くされたばかりで心中はお察します。ですが、あくまで形式的な質問なのでお答え願えないでしょうか?」

「冗談じゃない、俺たちのこと疑っているからそんなこと聞くんだろ? ふざけるのも大概にしろよ!」

 長男の慎太郎は低姿勢に構える翔一に対し、吐き捨てるように言った。

「…申し訳ありません。しかし、今回の事件は単なる強盗による殺人ではない可能性があります。事件解決のために、皆さんのご協力がどうしても必要なんです」

 桜子は黙って翔一を横目で見つめていた。

「どういうことです? ただの強盗殺人じゃないって…」

「慎太郎、ここは刑事さん達の言う通り協力すべきだわ」

 後ろから慎太郎の言葉を遮ったのは、先程までとは打って変わったように凛とした顔つきの梢であった。

「姉さん…」

「母を殺害した犯人を捕まえることが出来るのなら、どんなことでもご協力致します」

 梢はまだ少し項垂れている次女の詩織の背中をトンと叩いた。

「あたしも…協力します」

何とか三人の了解を得て翔一は一呼吸を置くと、殺害時刻のアリバイを梢から尋ねていった。

「私は一五時から一六時の間は二階の自室で寝ていました」

 予想外の答えに翔一と桜子は耳を疑った。

「家にいたのですか?」

「ええ、ここ最近体調が悪かったので。残念ながら証明は出来ませんけど」

「下の階で大きな物音とかは聞こえませんでしたか?」

「薬を飲んで熟睡していましたので何も…」

「嘘じゃない、俺が帰って来た時も姉さんは熱っぽかったんだ」

 二人の刑事の怪訝そうな顔つきを見て慎太郎が口を出してきた。

「何処に行っていたのですか?」

「就活から帰って来たんです。それから、スーツと鞄を置いてスーパーに買い物に行ったんです。今日は俺の買い出し当番だったんでね。生憎レシートは捨てちゃいました」

 慎太郎は次に質問される内容が分かっていたような口ぶりで話した。

「就職活動から帰って来た時に何か変わったことは?」

「二時半過ぎに帰って来ましたけど、特にありませんでしたよ。その時は母さんだって部屋にある鏡の前に座っていましたしね」

慎太郎は梢の方を見て頷くのを確認した。

「では詩織さんはその時に何を?」

 今度は桜子が詩織にアリバイを尋ねる。

「あたしはその時間、喫茶店でのバイトが終わって自宅に帰るまでぶらぶらと散歩していました。あたしも証明は出来ませんけど」

「何と言うお店ですか?」

「『グリーンカフェ』と言う所です。一週間前に始めた所でここから歩いて三十分くらいの場所にあります。四時半頃に帰って来た時には既に現場でお姉ちゃんとお兄ちゃんが呆然としていて…」

 誰も確かなアリバイがないようだと思いながらも桜子は三人に質問を続ける。

「どんな些細なことでも構わないわ。事件時刻の前後で何か気付いたことや変わったことはなかった?」

暫く考え込む三人の中で口火を切った者がいた。

「そういえば、あたしが帰ってくる途中に見たのって…」

 詩織が独り言のように呟いた。

「何の話です?」

「もしかしてあたし、お父さん見たかも…」

それを聞いた梢と慎太郎は一斉に詩織に目を見張った。

「何だって、親父に?」

「本当なの? 詩織」

 三姉弟の顔色が一変した。

「お父様と言うと?」

 翔一の問いかけに答えたのは梢であった。

「私達の父は二年以上前に別な女の人を作ってそのまま家を出たきり帰って来なかったんです…」

 梢の表情が俄かに暗くなった。

「母さんや俺たちが苦労していたのも全部あいつのせいなんだ! あいつは碌に働きもしなかった上に、家の金を盗んで女と逃げやがったんだ! 特に姉さんなんかは当時、結婚も決まっていてデザイナーを目指して留学もするはずだったんだ。だけど、あいつのせいでそれを全部捨てて近くで母さんを支えるようになったんだ!」

「慎太郎、その話はもういいから…」

 翔一と桜子は梢の心中を察すると同時に、父親である片倉修平について質問してみた。

「修平さんが現在暮らしている場所は御存知ないのかしら?」

「当たり前だろ、二年間音沙汰なしなんだから。だけど、一緒に暮らしているはずの女の名前なら知ってますよ」

「どうして?」

「親父が出て行く前、母が時々口にしていましたからね。確か篠山由香子って言う親父より一回り以上、年が離れた女だって聞いてますよ」

 慎太郎の話を聞き終えると、今度は翔一が詩織に質問を投げかけた。

「修平さんを見かけたのは何時頃でしょうか?」

「四時一〇分くらいだったと思います。今思えば少し慌てていたような気もします」

 その言葉を聞いた桜子の目が光る。

「もしかして家の方角から走って来たんじゃないの?」

 詩織は少し唸るように考えた。

「…そうかもしれません、断言は出来ませんが」

「おいおい、まさか親父が? 母さんがあいつを殺す動機はあってもその反対の可能性なんて…」

「慎太郎、滅多なこと言うもんじゃないわよ」

 梢が不謹慎な発言をする慎太郎をたしなめた。

「ともかく、片倉修平さんが事件に関与している可能性があります。我々はこれから彼の行方を追いますので、また何かありましたらお知らせください」

 上司を差し置いてその場を仕切った翔一はそのままリビングを後にして再び現場の部屋に戻って行った。

続く