短編 刑事・ミステリー小説

ちょっとしたミステリーや人間の心理を観察することが好きな方は是非一度ご覧を

「裏切り」 終章 すべては家族を守るために…

「裏切り」

終章 

翌日、翔一と桜子は片倉家の近所にある公園にいた。

「今回の事件は強盗殺人に偽装した怨恨による殺人事件だと思っていました。二種類の凶器が使用されたのも確実に相手に止めを刺すためだと思われた。しかし、事実はそうではなかった…」

「全てはお姉さんである梢さんを守るために行ったこと…そうよね?」

 二人に呼び出されていた詩織は俯いたまま小さく頷いた。

「近所の方の証言でフードを被った人物が現場近くで目撃されたという情報を得ました。初めはその人物が修平さんだと思っていましたが、梢さんの代わりに自分が罪を被ろうとしていたのなら顔を隠すような真似はしません。目撃されたのは事件当日にパーカーを着ていた詩織さん、あなたですよね?」

 詩織はまだ口を噤んだままだった。

「そしてその時に持っていた袋に入っていた物を、この公園の雑木林に埋めていたと言う目撃情報も昨日に得られたわ」

 桜子は持っていた袋から土で汚れた壺の破片を取り出していった。詩織は膝を付いて、幼女のように泣き出した。

「事件当日に起こったことを話していただけないでしょうか?」

 

 警視庁に戻った翔一と桜子は事件の顛末を梢に話していた。

「詩織が私のために…?」

「詩織さんはアルバイトが終わるとすぐに自宅に戻ろうとしていたそうです。その時にちょうど修平さんが家に入って行く所を見ていました。隠れて様子を窺っていたら、あなたと修平さんのやりとりの一部始終を聞いていたそうです。修平さんとあなたが現場を離れた後に玄関から入ると昌代さんが息を吹き返していたんです」

「その時に救急車を呼べば昌代さんは助かるかもしれなかった。でも、彼女はそうしようとはしなかった…」

 梢は既に涙ぐんでいた。

「ここで昌代さんが助かったらあなたは警察に逮捕される…。そう直感した彼女は衝動的に近くにあった壺で殴ったそうよ。そして立ち上がった拍子に落として割ってしまったその凶器を拾い集めて急いで捨てに行った…」

「どうして? どうしてお父さんもあの子も私なんかのために…」

 梢は翔一にその頬に流れた涙を見せるように顔を上げた。

「…それが家族と言うものではないでしょうか? 修平さんの部屋から押収したネクタイはあなたの使用したものとは別物でした。おそらく本物が発見されるとあなたに結びつく可能性があると思ったのでしょう。一度は家族を捨てた修平さんも、そこまでしてあなたを守りたかった…本当の意味で家族を裏切ることは出来なかったのでしょうね」

「修平さんも詩織さんもやり方は間違っていたわ。でも、誰よりも優しくて苦労していたあなたを知っていたからこそ、二人はそんな真似が出来たのよ」

 

「…詩織、ごめんね…ごめんね…」

 梢は何度も何度も同じ言葉を呟いていた。二人の刑事はその様子をいつまでも見守っていた。